Little AngelPretty devil
           〜ルイヒル年の差パラレル

    “春は もうじき”
 


彼岸の入りを前に、20度を越すほどもの気温を記録し、
東京でも桜の開花宣言が出たほどに、
この春は駆け足でやって来るつもりであるらしく。

 「あれかな。
  冬がずっとずっと途切れなく寒かったんで、
  付け入る隙を虎視眈々待ってやがった気団が
  凄げぇ固まりになってたとか。」

バスが行き来する大通りに面した店の前。
少々埃っぽいのは場所柄から仕方がないが、
時折 強めに吹きすぎる風にあおられちゃあ、
がたがた・ばたんと倒れかかる
二枚合わせの黒板タイプのメニュースタンドへ。
一時しのぎじゃあるがと、
その足元へセメントブロックの重しをくくりつけていた
葉柱のお兄さんの手際のいい手元を眺めつつ。
そんなお説を口にした、金髪の子悪魔様だったので、

 「お前は時々、
  賢いのか子供相応なのか判らんことを言うよな。」

幼い容姿を引き立てる、けぶるような軽やかな金の髪に、
賢そうな白い額と ふわふかですべらかな頬。
ちょこりと柔らかそうな小鼻に、
淡い緋色の、一丁前に形のくっきりした口元という、
それはそれは愛らしい風貌でありながら。
到底お褒めの言葉には聞こえなんだ一言へ、
金茶の双眸、きりりと力ませると、
ばこりと鋭い足蹴りを一閃、
お兄さんのお尻へお見舞いしている容赦のなさよ。

 「だぁあっ、何しやがんだお前はよっ。」

よほどにツボを押さえた蹴りだったか。
うおっと呻くどころじゃあないレベルの声を上げ、
屈んでいたところから
一気に飛び上がってしまったお兄さんだったが、

 「あ、ボードは倒すなよ。
  それって、
  マスターがわざわざイタリアから取り寄せたんだからな。」

蹴った側は しれっとしたもんで。
しかもしかも、
特別なボードなんだから、
割ったら あの渋いマスターからどんな叱責受けることかと、
さりげなく牽制する強かさよ。

 「あのなぁ〜〜。」

固定用の針金を思わず握り締めての がううと吠える葉柱だったが。
そんなお兄さんなぞ知ったことかで、

 「あ、いらっしゃいませ〜vv」

バス停に停まったバスへ向け、
とろりと とろけそうな愛くるしい笑顔を向けている。
舌っ足らずな話し振りといい、
ちょっぴり含羞みつつ、それでも手を振る仕草といい。

 “末恐ろしい坊主だの。”

ドア近くを通りかかってその坊やの脅し文句が耳に入り、
いや別に、大した代物ではないからと、
助っ人お兄さんへ告げに出て来たところの、
顎のおひげもなかなかに渋い、壮年のマスターさんが。
絶妙な愛想を振っている坊やへ、
あくまでも胸中にてだが、
苦笑をこぼすのを禁じ得ずとなっておいで。

 『そういや、明日は沿線の女子大の合格発表の日だろう?』

父上がバイトをしている“茶房もののふ”のお客様の大半は、
バスの沿線上にある 女子高と女子大の学生さんたちが大半を占めており。
下宿用の女性専用アパートが幾つかあるのへ近いお陰様、
ここで降りてくお客も多くての、結構繁盛している店なれど。

 『油断してっと、ほら、
  女子寮マンションの1階に
  テイクアウトの総菜屋とか出来たっていうしよ。』

ちゃんと最初にアピールしとかねぇと、
別に喫茶店には用はないわなんてな子を取り逃しちまうぞと。
店員が少ない店ゆえの、表への顔出し不足を補わにゃあとの
ご意見をくださったそのまま、

 『客寄せは、俺に任せとけっ。』

どんとお胸を叩いて下さってのお愛想担当を頑張っておいで。

 「よーいち。」
 「おお、くうも来い。」

カラランとドアベルを鳴らして、
当店の本来のレギュラーマスコットさんが、
やはり金の髪もぽあぽあの愛らしさで ちょこまか出て来たものだから、

 「きゃー、今日は二人ともいるんだvv」
 「くうちゃん、よういちくん、こんにちはvv」

何人もが降り立った中、
顔なじみのテニス部のお姉さんが手を振ってくれたのへ。
そうなのと愛想よく笑いの、

 「今年は部員さん、いっぱい入って来そうですかぁ?」

ちょみっとたどたどしく訊いて、にこぉっと微笑って見せて、
後に続いたお友達へも、
きゃああ、かわいぃいvvとの歓声で沸かせるところなぞ、

 “スタジアムでのハーフタイムに、
  愛想振りは磨いとるからなぁ。”

チアリーダーのお姉さんたちが頑張ってるのに負けず劣らず、
寸の足らないお手々にポンポン握って、ぴょんぴょんと跳ねてみたりしては、
ギャラリーの主に女性陣を沸かせているのだもの。
こういうことへの耐性も演技力も、半端じゃあない子悪魔様。

 “だってよ、繁盛してもらわんと、
  親父の奴、暇になったらロクなことしねぇしな。”

そんな憎まれを言いつつも、
ホントに嫌っているもんならば、
わざわざ自分まで足を運んだりはしなかろうによと。
素直じゃあない坊やなの、こっそり見透かし、
苦笑が絶えない葉柱のお兄さんだったりし。

 「何だよ、何か可笑しいか?」
 「いいや、別に。」

ポプラの並木もそろそろ芽吹きが近い。
新入生のおねいさんたちにも愛想を振り撒き、
近くに桜の名所があるんだよぉ?なんて、
猫なで声を出してる坊やへ、
そうだな、そろそろ花見の季節だ。
一段落ついたら、例の穴場への花見にも行こうなと、
そっちの算段を胸の中にて転がしている、
黒髪もびしっと固めての恐持てだけれど、
実は子煩悩なラインバッカーさんが、吐息交じりに苦笑を重ねた、
そんな春先の、風の強い昼下がり…。





     〜Fine〜  13.03.18.


  *通学途中のカフェや文房具店って、
   結構 最初のお店が定番になりがちですよね?
   帰宅部なんだったら、その後に開拓も出来ますが、
   そうでない子は早めに取り込まにゃあと、
   やり手の子悪魔様、
   そこら辺も抜け目がなかったりするようです。(笑)

ご感想はこちらvv めーるふぉーむvv

ご感想はこちらへ or 更新 & 拍手レス

戻る